後見人3部作、その3 周辺関係者(??)コラム
どうもこんにちは。行政書士の手続寿留子です。
前回は成年後見制度が相続にも有効というお話をしました。
詳しく知りたい方はご相談を~と少しもったいぶりましたが、ええい、もってけドロボー!
成年後見制度の概要をざっくりとご説明しましょう。
(成年後見でグーグル先生に聞けば分かりやすいサイトはたくさん出てきますので、もったいぶるほどのこともないのですけど・・・)
成年後見は、「後見開始の審判があったとき」に開始します(民法838条)。
つまり、家庭裁判所に「これこれこういう事情でこの人に後見人を付けてください」という申立て(後見開始の審判の申立)をして、家庭裁判所が「いいですよ」といって後見開始の審判を出してくれたら、後見人が選任されて、後見が開始されます。後見人が選ばれたら、後見人は被後見人の財産の調査をして、目録を作成します(民法853条)。その後は、被後見人の財産について後見人が管理し、その財産に関する法律行為について被後見人を代表します(民法859条)。
かみくだいていうと、後見人は被後見人の財産(不動産はこれとこれ、預金はこれだけ、株がこれこれ、と全てまとめてその内容を裁判所に報告し、預金などは後見人が別途その人の為に作った銀行口座に移動して管理を始めるのです。不動産の処分(家を売るとき)などにも家庭裁判所の許可が必要になります。
後見人が財産を不正に使い込んだりしないか?という点が心配かもしれません。確かに数年前には弁護士が後見人の財産を着服した、というような事件の記事が新聞に掲載されたりしました。
そのようなこともあってか、管理する財産が多額の場合は、最近は弁護士が後見人になるときでも、家庭裁判所から選ばれた「後見監督人」という人が付けられることが増えており、後見監督人が後見人の見やり役となって、後見人が不正をしないか監視しチェックすることになっております。「一部の弁護士のせいで俺様にまで監督人が就くとは」と、ベテランの弁護士などはボヤいてます。
後見開始の審判の申立と、後見人の仕事については、家庭裁判所のパンフレットがとても分かりやすく(当然ですが正確に)まとめてくれていますので、そちらをご覧ください。
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/h28koukenpanf.pdf
と、説明を丸投げして終わってしまうのもせっかくのコラムとしてナニですので、申立にまつわるビックリ仰天したお話をご紹介いたします。
審判を申立てる時、認知機能の低下などを理由とする場合は、医師の診断書が必要となります。だいたいは診断書で足りるようですが、場合によっては、家庭裁判所の人が本人に面談をして、判断することもあります。申立てることが出来る人は、本人(被成年後見人となる者)、配偶者、四親等内の親族(甥、姪、配偶者の兄弟、本人のいとこなども含む)です。本人以外の者も申立出来るのは、本人が事情をよく理解できないぐらい認知機能が低下した場合が想定されているためです。
ここである日、90歳ぐらいのAさんが、公正証書遺言を作りたいと、娘、息子と共に弁護士事務所にやってきました。弁護士は遺言の内容を聞き取り整理し、公証人を手配し、公証人のところに本人と弁護士と証人とで尋ねて公正証書遺言を作りました。
しかし、その遺言を作成しに公証役場を訪れていた弁護士が、ちょっと慌てた様子で事務所に戻ってきました。
「Aさん、成年後見開始の審判申立てされてるかも」と。
Aさんについて、成年後見が開始されていると、今回行った遺言の効力は無くなってしまいます(遺言能力がなかったとされ、無効になります)。せっかく諸々準備して公証人とも何度もやり取りして証人まで連れて公証役場に行って手続をしたのに、全部無駄になります。弁護士からすると、おいおい、勘弁してくれよ~です。
このAさん、遺言について手続するべく一緒に弁護士事務所を訪れていたのは、二男と長女でした。そして、成年後見開始の審判を申し立てていたのは、この遺言作成の手続きに関与していなかった長男でした。長男としては、親父さんが自分に不利な遺言をする前に、成年後見を開始してしまえば、自分の取り分を確保できるとにらんだようです。
(実際に遺言の内容が長男に不利なものだったかどうかは不明です。この話の二男自身は大変な大金持ちで、別にAさんの財産などアテにしなくても一生一族郎党遊んで暮らせるぐらいの財産を持っているような人です。)
Aさんに関しては高齢でしたので、遺言をする前に一応念のため、遺言能力があることを確認する意味で、認知系の診断を受けていました。その筋では権威とされている医師に診察してもらい、問題ないという結果を得ていたのです。その辺りはさすが百戦錬磨の弁護士だけあり、抜かりありません。ですので、今回の公正証書遺言が無効になる可能性はかなり低いと見られています。(これは将来長男が争ってきた場合に問題になることで、争ってこない場合は問題なく有効です)
かたや、長男が後見開始を申立てるにあたって提出した診断書は、どこの誰とも知れぬクリニックの医師のものだったとのことですし、まだ後見開始の審判が出ているわけではないので、今すぐ遺言が無効になった大変だ、とうことになってはいません。
ですが、後見開始審判は、四親等内の親族であれば申立てることが出来るので、Aさんの話のように、他の家族が知らない間に申立てられていた、ということもありうるのです。
Aさんご本人は、耳が遠いようでしたが、話す内容はしっかりしておりました。しかし、長男が診断書を出しているということは、長男と共にクリニックを訪れているはずですが、そのことは二男と長女には話していなかったようです。Aさんとしては、自分の回りであれこれ世話を焼いている二男と長女を差し置いて、長男と一緒にクリニックに行ったという事が、何となく後ろめたかったのかもしれません。お年寄りが家族に気を遣って(ある意味子供らみんなに良い顔をしたくて)、悪気なく隠し事をするのもよくあることですので、どうかご注意くださいませ。
なお、後見人は裁判所の許可を得て、報酬を得ることも出来ます。
被後見人の財産にもよりますが、弁護士などが後見人になると、だいたい月3万円程度が被成年後見人本人の財産から支払われます。後見監督人にも報酬が支払われます。ですので、後見監督人が就くと安心は安心ですが、ある意味何もしてもらわなくても報酬が監督人に支払われますので、本人の財産が減っていくという意味では不利益な部分もあるのかもしれません。ほとんどの専門職後見人がまともな人ですから、不正などしませんので。
後見人は基本的に裁判所が「この人でいいよ」と認めた人でないとなれませんので、必ずしも本人や家族の希望する人が選ばれない場合もあります。弁護士が貢献している人たちは、見ず知らずの人たちということも多いです。実際を見ていると、70歳を過ぎたオッサン(おじいさん)が、見ず知らずの90歳ぐらいのおばあさんのおむつ代を振込んだりしているわけで、結構なんだかなーと思う部分はあります。自分が後見される立場だったら、どこの誰かも分からない爺さんに、たとえ訳が分からなくなっているとしてもおむつ代だの美容院代だの、処理されるのはちょっと嫌だな・・・と。
ただ、自分で希望の後見人を選ぶ方法はあるのです。はい、任意後見人の制度です。
これについては、次回にざっくりご説明しましょう。