高齢者と住まい その2
前回は、高齢者が賃貸物件を賃貸する際に直面する難しさ具体的には、保証人、身元引受人、孤独死への対策という問題があることを議論しました。
それでは、一般の賃貸住宅ではなく高齢者専門住宅を借りる場合、実はここにも別の問題があることを議論したいと思います。
次の文書はとある老人福祉事業者のホームページに記載のあった内容です。多少トーンの違いはあるものの、おおよそ一般的な見方なのではないでしょうか。
65歳以上の高齢者が総人口の約23%を占め、日本は超高齢社会に突入しています(※1)。その中で、高齢者向けの住まいは、住宅系・施設系ともに不足しており、施設系では特別養護老人ホームの入居待機者が約42万人にも達するのが現状(※2)。高齢者が安心してくらせる「ケア付高齢者住宅」の需要は、今後ますます高まると見込まれています。
※1:総務省統計局「人口推計月報 平成21年11月1日現在の確定値」より
※2:厚生労働省調べ
マクロ的な数字合わせでは高齢者住宅が不足しているわけです。また、高齢者向けに作られた住宅であれば、大家さんとの間に前回コラム見たような問題点はでませんよね。しかし、そこにはコストという大きな問題があるのです。
それでは、高齢者住宅を新築するの場合のコスト試算をしてみましょう。①高齢者専用住宅の一人部屋の居住面積は25平米②食堂などの共有スペースを除いたレンタブル、といわれる賃貸可能比率は60%程度③建物容積率は200%例えば30名定員であれば、25平米×30名÷60%=1250平米(378坪)が必要な建築面積必要な土地は、1250平米÷200%=625平米(189坪)
以上から、建築面積はおよそ380坪、土地は190坪程度が必要となります。次に、建築費ですが、380坪×80万円=30400万円、建築単価80万円は木造の場合で、鉄筋コンクリート等であれば100万円を超えます。土地は190坪×35万円=6650万円、この土地価格も相当安い土地で、通常市街化地域では50万円程度(松戸市の場合)必要です
よって、30名分の高齢者住宅を作る場合、最低でも37050万円が必要になります。事業者はこれを20年で回収するとすれば、37050万円÷20年=1852万円一人あたり、1852万円÷30名=62万円、月当たり5万円となります。この5万円はコストを相当切り詰めた場合とご理解ください。
これは毎年の固定資産税や、金利、建物老朽化の修繕や、事業者の利益等を考慮していない金額です。諸々入れれば、月10万円以上で賃貸できない場合、事業者は赤字となります。
皆さんは日々高齢者の問題に向かい合っていることと思います。はたして、10万円以上の家賃を負担できる高齢者はどれだけいるのか、肌感覚でご理解いただけるであろうところ。
ついでに特別養護老人ホームの構造について追記しますと、特別養護老人ホームは新築の場合一床あたり300万円程度の補助金があります。また、運営主体の社会福祉法人は、各種税金が免除されております。つまり、新築でも安く住まいを提供できますが、税金が投入かつ免除されている、ということでございます。
通常の賃貸住宅は10万円もしませんよね。なんでこのような違いがでるのか、通常の賃貸住宅と、高齢者専用住宅には大きく2つの違いがあります。
一つは共有部分、高齢者専用住宅は法律で食堂などの共有設備が義務付けられています。これは上記の計算式でいうところのレンタブルの数字に表れます。賃貸可能面積が大きくなればなるほど、多数を収容でます。たとえば、賃貸可能面積、レンタブルが90%であれば、高齢者住宅のレンタブル60%にくらべ、約35%の建築代金削減効果があります。
二つ目は、スプリンクラーや非常用設備など、これも法律で義務付けられている設備がある、ということです。上記の計算式では、建築単価に反映されます。スプリンクラーや非常用設備がない場合の木造建築で建築単価が60万円/坪で作れば、80万円にくらべ
25%建築代金削減効果があります。
35%と25%で既に60%の削減、一部屋5万円が、原価2万円+利益、で提供することができるのです。
よって、新築で高齢者住宅を作る場合、一般の賃貸住宅にくらべゆったりとした作りが必要で、より高度な設備が必要となるため、物理的に安価に提供することができない、
制度的な構造があることが理解できると思います。もし、安価に提供するためには、税金を投入するしかない、ということなのです。
長々と書きましたが、結論です。新築の老人住宅は10万円以上の家賃が必要。一方で10万円の家賃を支払える高齢者は少数。特別養護老人ホームは安く住まいを提供できるも、財政負担が大きく、わが国財政を考えると、作り続けることは限界がある、ということ。
今回のコラムは社会福祉士で金融機関で高齢者住宅向け融資業務を担当していた本NPO副理事長が担当いたしました。今後も、高齢化社会で直面する問題について、知っておきたい豆知識をコラムとしてご提供しようと思います。ソーシャルワークの一助になれば幸いです。
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